「不眠の都市 LA CITE D' INSOMNIE」
パリ―東京間を行き来する、画家の眼が紡ぎ出すモザイクの回廊。 |
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「不眠の都市
LA CITE D' INSOMNIE」
到津 伸子 / NOBUKO ITOZU
講談社 ¥2500(税別)
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優れた表現者は、文章に於いてもまた、その魅力が滲み出てくるものだが、この「不眠の都市」は、瞬時に彼女の才覚を確信させてくれる、類稀なる一冊である。
「パリ―東京の時差から生まれた、濃密な記憶の物語(モザイク)」、その言葉通り、ひとたびページを開けば、私たちは瞬時にそのモザイクの回廊に迷い込んでしまう。そこには、画家である彼女にしか描けないであろう、美しく、繊細でありながらもしなやかな強さを湛えた、幾つものカンヴァスが立ち並ぶ。時に退廃的であり、また、魅力的な大人たちが人生を謳歌する、エスプリという言葉の真髄すら感じさせながら。ページをめくるうちに、そこはみるみるうちにパリの街角のカフェとなり、またアパルトマンの一室へと変容する。眼に写る世界は色を変え、匂いを変え、文字を追う私たちの眼差しそのものすら、研ぎ澄まされてゆくようである。
たとえば日々に追われ、時間に追われ、雑多な極東のこの街の風景に疲れて、どこかへ逃げ出したくなるときがある。そんなとき、この本の中へと回避してみてはどうだろう。遠くへと敢えて行く必要などない。一瞬でも眼に写る風景を変えてくれる、あのカフェの特等席に腰掛けてみてもいい。馴染みの顔と挨拶を交わし、いつもの品をギャルソンにオーダーすれば、カップから漂う甘い香りが、棘立った心をやさしくなだめてくれる。あとはページを開き、気の済むまで、夜の旅に出るだけだ。今夜もまた、不眠の都市の夜は長く、パリ―東京間を行き来するモザイクの回廊は、果てしなく続く。
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| 美月レンカ(Renca Mizuki) |